
1953年 足利市生まれ 美学校出身
1980年 詩集「fore」
2007年 詩集「窓ひらく」
2014年 栃木県芸術祭 文芸賞受賞
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やじろべいさん
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思いがけず
破ってしまった約束で「私」から 転げ落ちてしまった。
以来、「私」は雲の上
こちらは地上でくらしている。
様々な 私のつもりを積み上げた頂きで
やじろべいさんが
ゆらぎで笑っている。
積み上げた等高線のどちら側が 高いか 低いかの約束は無く
此処には ここしかないが
目も耳も その不能によって
捕まえようとしている。
守れなかった約束の代わりを
不能は何を笑っているのだろう。
取り返しのつかない行いをか
とりかえそうとしている行いをか
やじろべいさんは傾く
小さく橙色に 広く青に
反転の際は緑色を
くりかえしている。
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追憶
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とても遠い時間に話された声が
いとおしさの繭となっている。
そこに
くるまれながら記憶は繁る。
私は忘れられたくない
でも 思い出して貰えなかったとして
何が起きるのだろう。
自分が知らない事柄について
何も思えないように
私に纏わる事柄が
雑草の一つまみになって
どこにでもいる文節が
私を
始まりも無いゼロとして扱い
時の内に識別せず 語り
継がれてゆくとして
それが何だというのだろう。
近すぎて届かない深みから
始まっている、たくさんの瞬間
目前に
あなたがゆれていた。
あなたを忘れられない。